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環境・社会・ガバナンス(ESG)投資

エンゲージメント

スチュワードシップとエンゲージメント
発行体とのエンゲージメントは、長期的なアクティブ・オーナーであるために不可欠な要素であり、財務的に重要なトピックについて発行体と対話することで、発行体のパフォーマンスを向上させ、リスクを軽減することができると考えています。

“アクティブ・マネージャーとして、当社が行うスチュワードシップ活動は、投資プロセスの重要な一部です。”

~ Jonathan Bailey, ESG投資責任者

ESG Engagement Stats ESG Engagement stats
エンゲージメントのケーススタディ
ディスクロージャーによる投資家の信頼回復
アディエン社

背景:
アディエン(Adyen)社は、加盟店の事業成長を支援する決済サービスを展開する大手企業です。同社は2006年に設立され、2018年に株式市場に上場し、設立当初から当社のグローバルおよび欧州サステナブル株式戦略の組入銘柄となっています。当社は、技術志向、顧客中心のアプローチ、長期的な視点から、同社を魅力的な企業とみています。しかし、同社がどのように目標に向かって業績を上げ、潜在的なリスクを管理しているか、投資家が理解しやすくするために、情報開示を強化する機会があると考えました。

視点とプロセス:
同社の経営陣は、財務目標の裏付けとなる主要な業績指標や定量的な裏付けについて、概して確固たる開示を行っていませんでした。決算報告は半年ごとにしか行われず、従来の投資家向け説明会では、プロダクト・イノベーションと財務目標の明確な関連性を示すことができませんでした。

2023年、同社は突如として深刻な問題に直面しました。加盟店の価格志向が強まり、決済サービス・プロバイダー間の競争が激化したのです。同社は高価格帯のサービスを提供していることから成長が鈍化し、組織の拡大と新製品の展開のために多額の投資を行っていた時期でもありました。そのため、2023年上半期の業績は投資家の期待を下回るものでしたが、同社からの情報開示や今後の方針に関するコミュニケーションは限られていたため、投資家は暗闇に取り残された格好となりました。

当社は、同社との継続的な対話において、不本意な決算と不十分な説明を受けて、より緊密なエンゲージメントを行いました。エンゲージメントでは経営陣に対し、提供するサービスの優れた機能性と成長目標の根拠に関するコミュニケーションと情報開示を改善するとともに、投資家の期待と公表された業績との乖離を避けるために報告頻度を増やすことを助言しました。

成果と展望
11月に開催された投資家向け説明会では、経営陣は投資家の懸念に耳を傾け、やや縮小したものの業界トップの成長見通しを裏付ける信頼できる財務基盤を説明しました。例えば、同社はセグメント別および顧客ヴィンテージ1別のシェア・オブ・ウォレット2に関するデータを開示しました。これにより、「ランド・アンド・エクスパンド」戦略3の根拠が明確になり、成長の少なくとも80%は既存顧客に依拠するという主張を裏付けるものとなりました。顧客の成長と満足度に関するデータは、同社のサービスが顧客の共感を呼んでいるという当社の見解を裏付けています。透明性を向上させるため、少なくとも移行期間中は、市場の期待と実際の業績が乖離する可能性を減らすために、半年ごとの決算発表の間に多くの情報を提供することを決定しました。

当社は、製品のイノベーション、データプライバシーとセキュリティ、人的資本管理、財務上重要なESG開示など、さまざまな課題について同社とエンゲージメントを継続してまいります。

メタン管理におけるリーダーシップの提唱
コテラ・エナジー社

背景
COP28を通じて、炭素集約度の高い化石燃料からの脱却において天然ガスが果たす積極的な役割が認識されています。天然ガス生産におけるベストプラクティス、特にメタン管理の確立は、ガス生産者にとって重要な必須事項であると考えています。当社は、事業運用および技術への投資、透明性と報告、石油・天然ガス企業を対象とするメタン排出削減に関する報告フレームワークであるThe Oil & Gas Methane Partnership 2.0 (以下、OGMP2.0)などの業界における取り組みへの参画など、メタン管理に関する業界のベストプラクティスの定義と採用において、コテラ・エナジー(Coterra Energy)社がリーダーシップを発揮するようエンゲージメントを行ってきました。

現在、エネルギー・セクターは、人間活動に起因するメタン総排出量の約40%を占めており、農業に次いで2番目です。メタンは、産業革命以降の地球の気温上昇の要因のうち約30%にのぼります1。排出されるメタンは、そのままでは無駄になります。無駄になるはずだったメタンを回収し、売却可能な市場性のある製品に変えることで、事業効率を向上させることが可能です。メタン排出量を効果的に管理している企業は、利害関係者、投資家、一般の人々からの評価を向上させ、事業の社会的意義を維持することが可能であるとみています。

視点とプロセス:
当社は、同社のCEOであるTom Jorden氏がシマレックス(Cimarex)社のCEOを務めていた頃から、10年以上にわたってさまざまなサステナビリティの課題に取り組んできました。同氏の在任中、シマレックス社は、開示の拡大、メタン漏れの検出および開示システムの開始などに関する株主の提案に対応しました。

同社とシマレックス社との合併が完了した後、合併後の新会社の一連の実務基準、開示、および排出量目標の策定において、当社は対話を継続しました。経営陣の要請により、CEOのJorden氏、排出量削減目標の設定を直接担当するシニア・オペレーティング・チームおよびサステナビリティ・チームのメンバーと対話し、気候変動開示とTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)の勧告の整合性、気候変動に関する取締役会の監視の正式決定、報酬プログラムに排出量削減指標を含めるなど、関連する問題について議論を重ね、包括的な提言を行いました。

2023年には、同社との直接的なエンゲージメントに加えて、OGMP 2.0などの業界の取り組みとの協力を含んだ、メタン測定へのアプローチに関するより包括的な報告を開示するよう同社に求める株主提案について、当社の議決権行使を事前開示する取り組みであるNB Votesを通じて支持を表明し、この提案を強化しました。石油・ガス業界では、リアルタイムのメタン排出方法への移行が規制基準の中心的な部分になりつつあります。

成果と展望:
当社は、同社について、事業全体でメタン排出量を削減することに尽力し、それが長期的にビジネスと環境にもたらすリスクを軽減する技術に基づく文化を有していると考えています。当社のエンゲージメントに応えて、同社はTCFD/SASBに沿ったサステナビリティ報告書を公表し、インセンティブ・プログラムに排出量削減指標を組み入れ、OGMP 2.0に参加してリーダーシップを発揮し、業界のベストプラクティスを推進しました。当社は同社との継続的な対話を重視しており、責任ある天然ガス生産者 として気候リーダーシップを推進する機会に対処する上で、継続的な議論を期待しています。

経営層の責任を求めて
CSX社

背景
米国環境保護庁(EPA)によると、貨物鉄道は米国の総温室効果ガス(GHG)排出量のわずか0.5%、交通関連のGHG排出量の1.7%にとどまっています。一方、自動車とトラックはそれぞれ58.5%と23.4%を占めています。この大きな差は、貨物を道路から鉄道に転換することで、米国および世界の環境目標に貢献できる鉄道の可能性を示しています。貨物1トンであればトラックで運ぶよりも、4倍の距離を運ぶことが可能な鉄道の方が直接的な燃料効率の恩恵があるのは理解しやすいですが、貨物運送をトラックから鉄道にすることで付加的な利点もあります。高速道路の混雑が減少することで、排出量の削減、安全性の向上、生活の質の向上など、多くの広範な利点があります。

鉄道業界は公共の利益を提供する公共輸送機関として分類されているため、重要な連邦規制の監督があります。近年、この業界は特に2023年にオハイオ州イーストパレスティンで発生した脱線事故などの事件を受けて、監視が強化されています。これらの課題を克服し、鉄道は2000年以降、安全性と事故率において顕著な改善を示しています。2023年の米国連邦鉄道局(FRA)のデータによると、すべての鉄道における脱線率と1車両あたりの危険物に係る事故率は大幅に減少しています。さらに、米国のクラスI鉄道(大手鉄道会社)においても、本線(主要な鉄道路線)の事故率と操車場の事故率が大幅に改善しています。

範囲とプロセス
CSX社に対する当社のエンゲージメントは、初期投資のための全体的なデューデリジェンスの一環として2018年に始まりました。業界のリーダーとして認識されている前CEOのJim Foote氏との関係は20年にわたり続いており、当社のこのセクターへの長期的なエンゲージメントを裏付けています。当時、当社は同社の全体的なガバナンスと文化に惹かれ、堅実な運営者として評価していました。それ以降、同社との交流のなかで、会社訪問、運営スタッフや経営陣との面会、操車場やメンテナンス施設を見学する機会がありました。CEOの交代と継承、特にHunter Harrison氏の在任期間(2016-2017)からJim Foote氏(2017-2022)、そしてJoe Hinrichs氏(2022年以降)への移行は重要なものでした。

当社は、その競争力の維持と参入障壁の高さゆえに、鉄道運営者における安全性と取締役会レベルの監督は重要な主要業績指標(KPI)であるとみています。そのため、複数年にわたる株主利益の積み上げを目指して、当社は同社に対し、経営幹部の報酬計画に安全指標を追加し、既存の排出削減目標をネットゼロに整合させ、科学的根拠に基づく目標イニシアチブ(SBTi)による承認を受けるよう奨励しました。

さらに、新型コロナウイルスによるパンデミックの間、当社は労働関連の情報開示を求める国際的な取り組み「ワークフォース・ディスクロージャー・イニシアチブ」(WDI)と協働しながら、同社と積極的に関与し、同社の重要な労働者の健康と安全を推進し、有給病欠の方針を強化し、労働力の懸念に対処しました。

結果と展望
当社のエンゲージメントに応じて、安全指標は2019年に初めて同社の経営幹部の報酬計画に10%の比率で含まれました。同社の信頼性のある安全指標とKPIの早期採用は、労働者の負傷と脱線の双方を含む、真のステークホルダー志向の文化を反映していると考えています。2019年の目標に代表される安全運行への継続的な取り組みは、同社のける列車事故率の9%の改善と負傷率の13%の改善をもたらしました。

同社はまた、新型コロナウイルスによるパンデミックとその後の労働組合交渉を経て重要な労働力を適切に管理し、排出目標をネットゼロ経路に整合させ、SBTiによる認証を受けることに成功しました。CEOのHinrichs氏は、従業員のエンゲージメント、労働関係の改善、および全体的な文化の強化に成功しています。

小売業における持続可能な成長への道
EGグループ社

背景:
EGグループ(EG Group)社は、燃料、コンビニエンスストア、食品のテイクアウト販売といった多様なブランド・ポートフォリオを持つ欧州最大のフォアコートストア(ガソリンスタンド併設の小売店)を運営する小売業者です。米国、欧州、オーストラリアで5,500以上の施設を運営しています。同社は電気自動車向けのインフラを拡大しようとしており、当社はこの取り組みを支援するとともに、目標設定と持続可能性全般に関する透明性の向上を求めています。

視点とプロセス:
低炭素経済への移行の一環として自動車の電動化が本格化する一方で、インフラは依然として課題となっており、電気自動車(EV)の利用を促進するために充電ステーションを拡充する積極的な動きが求められています。また、EVは1回の充電で平均20〜25分を要しますが、この時間は買い物に適した時間であることから、小売業者はEVの普及が進むことで成長の機会を追求することが可能です。

EGグループは、2021年から2023年にかけて約400台の充電器を設置し、足元では欧州の189の拠点に合計635台の充電器を有しています。しかし当社は、IRチームやサステナビリティ・チームの責任者を含む経営陣との継続的な対話の中で、EVに関する事業計画をより具体化するよう同社に働きかけました。また、2030年までにグループ全体のEV充電ステーション数を大幅に増やすという定量的な公的目標の設定や、サステナビリティ会計基準審議会(SASB)の基準に沿った年次サステナビリティ報告書の発行など、サステナビリティ情報開示の強化を求めました。

成果と展望
同社はテスラ社から300台の急速充電器を購入したことで、欧州の3,600拠点で20,000台の充電器を展開する可能性があります。同社はまた、英国の店舗を同国スーパーマーケット大手のアスダ(ASDA)社に売却し、新ブランド「evpoint」充電器を展開する一方で、自社所有の店舗に設置し、他社からの提携を模索すると発表しました。開示については、2022年10月に同社初となるサステナビリティ報告書を、2023年6月には当社が求めたSASB指標を盛り込んだ年次報告書を発行しました。

当社はEGグループ社のEV充電器分野での拡大を高く評価しています。同社が引き続きEV充電器の展開を継続し、関連する定量化可能な目標を設定することを期待しています。

株主還元
沖縄セルラー電話株式会社

背景
沖縄セルラー電話株式会社は、沖縄県を主たる営業地域とする総合通信会社です。同社は、沖縄県の主要企業と、KDDI株式会社(以下、「KDDI社」)の前身である旧第二電電株式会社が共同で設立した総合通信会社であり、同県内において、携帯電話回線契約件数で50%以上のシェアを獲得しており、高収益性と潤沢なキャッシュ創出力に支えられた安定した事業基盤を有しています。

長年にわたり、当社は同社のビジネスモデルを高く評価している一方で、同社は創出されたフリーキャッシュフローの大部分をKDDI社に対する「関係会社短期貸付金」という親会社に対する融資に充当していました。本来であれば事業の成長によって創出された資本を事業の成長に再投資するべきであり、仮にその資本が余剰と判断された場合は、少数株主を含む全ての株主へ還元されるべきであると当社は考えています。

視点とプロセス
当社は長期にわたって、同社と資本配分や取締役会の構成などについて対話を続けてきました。2020年に自己株式の取得を開始したことは喜ばしいことですが、その後の進展は限定的であったため、当社独自のマイルストーンを考慮したエンゲージメント・プロセスに沿って追加の措置を講じる必要がありました。

まず、2022年2月、同社の取締役会に対して、キャッシュの問題への対処を求める書簡を提出しました。次に、2022年6月には、資本の非効率性と取締役会の独立性の課題への対処が見られなかったことを理由に、NB Votesの取り組みを通じて取締役の選任に反対票を投じる意思を示しました。さらに、当社日本株式運用部とグローバル株式運用チームの共同の取り組みとして、KDDI社と対話し、同社の中長期かつ持続的な成長に必要とされる資本効率性と適切なガバナンス体制について議論を重ねてまいりました。

成果と展望
同社は、2022年10月に中期経営計画を初めて公表し、その中で、2025年3月期を最終年度とする1株当たり当期純利益(EPS)成長目標や、設備投資、成長投資計画を含む資本活用・分配の概要も開示しました。投資家はこの重要なステップに好意的な反応を示し、その半年後には、同社がこれまでKDDI社へ実施してきた親会社への融資を縮小し、KDDI社から同社株式の公開買付けを実施することを発表しました。

今後、当社は、同社のさらなる資本政策や、KDDI社への融資の使途、非セルラー事業への投資の可能性などについて、建設的な対話を継続する予定です。また、取締役会の独立性と、効果的な資本計画に不可欠な取締役会メンバーのスキルセットについても重視しているほか、複数の業界に影響を与えるデジタル移行の一環としてITコンサルティング事業を拡大する上で、従業員の再教育は依然として重要な課題とみています。当社は、同社がこれまでに達成した進歩に高く評価しており、今後も長期的に経営陣と協働することを楽しみにしています。

水の多様化: 企業財務とインパクトへの貢献
ペンティア社

背景
ペンテェア(Pentair)社は、ポンプ、フィルター、ヒーターなどの水処理に関するソリューションを提供しています。同社は歴史的にプール用機器を手掛けてきましたが、より商業的・工業的な水処理事業への多角化を進めています。当社は、投資先企業に対して測定可能かつポジティブな環境的・社会的成果を意図的に求めることに重点を置いた投資戦略を採用されたお客様に代わって、新たな水処理分野の追加による事業構成の拡大という事業戦略を支持しました。また、同社が自社の製品を通じて創出したポジティブな成果をより包括的に報告することが有益であると考えました。

視点とプロセス
2021年に同社への投資を開始して以来、当社は同社の最高財務責任者(CFO)およびIRチームに対し、定期的にエンゲージメントを行ってきました。当初、当社は、同社が水処理ソリューション事業への投資を拡大する機会に焦点を当てました。水処理ソリューション事業は、プール事業よりも小規模であるものの、事業全体のシクリカル性を緩和し、水質により重要な成果をもたらす可能性がありました。また、単発的なケーススタディや統計の公表ではなく、同社製品がもたらすポジティブな成果を集約して報告する可能性についても議論しました。2023年に当社は、同社が採用した戦略的IR助言会社による綿密な「パーセプション・スタディ(IR活動におけるアナリスト・機関投資家の評価の調査)」にも参加し、同業他社のベストプラクティスの事例を紹介しながら、ファンダメンタルズとインパクトに関して提案を強化してきました。

成果と展望
2022年、同社は中規模の業務用製氷・水処理業者を買収し、より重要なサービスへと事業構成を多角化し、プール事業から撤退しました。2022年4月に公表された2021年サステナビリティ報告書では、同社は当社のインパクト分析に使用できるよう、製品に関するポジティブな結果を集計し、より詳細に報告しています。これには、エネルギー効率の高いプール用ポンプの使用による約44万トンのCO2 削減、年間推定750万トンのCO2を回収可能なソリューション、90億本相当の使い捨てペットボトルの削減などが含まれます。最後に、同社は2023年に2部門から3部門に組織を再編成し、水処理部門を新設することで利益拡大に努め、投資家に過小評価されているとみられるこの成長分野の業績に関する透明性を高めました。

当社は、資本配分の優先順位や科学的根拠に基づく排出削減目標の達成など、多方面から同社へのエンゲージメントを継続します。

排出目標の引き上げ
PPGインダストリーズ社

背景
PPGインダストリーズ(PPG Industries, Inc.)社は、塗料を手掛ける世界的な特殊化学品の大手企業であり、多様な製品ポートフォリオを有しています。同社は、重要な気候変動リスクの軽減に向けて前進しましたが、当社は排出量と環境的に持続可能な製品に関して、より野心的な長期目標を設定する機会があると考えました。

低い脱炭素化目標や持続可能な製品の欠如に関連する潜在的なコンプライアンスリスクや機会コストを考慮すると、これらの目標は 同社 にとって特に重要であると思われます。同社 の売上の 30%以上を占める欧州市場では規制要件が厳しくなっていることから、顧客はこうした問題に基づいていっそう製品を選別するようになっています。

視点とプロセス
同社が発行する債券の投資家として、当社は、経営幹部、IR、ESG チームと定期的にエンゲージメントを行い、さまざまな問題への提言を行ってきました。当社は、気候変動は化学企業にとって財務的に重要なリスクであると同時に機会でもあると考えています。同社は、自動車、航空宇宙、包装、建築用塗料など、規制と消費者の両方から、より低炭素に対する要求が高まっている最終市場において、多くの企 業に製品を供給する重要なサプライヤーです。自社のスコープ 3 排出量の削減を目指すサステナビリティに対する意識の高い顧客から、より低炭素の製品への需要が高まっていることを受けて、当社は、持続可能な製品を販売するため に、より野心的な目標を設定するよう求めました。同社 の製品ラインナップをより持続可能ものへと拡大する資本配分が、同社の収益性と市場シェアの向上に貢献する可能性があると考えています。

当初、同社は、2025 年までにスコープ 1 と 2 の排出原単位を削減することだけを掲げており、多くの同業者よりも短期的な目標に留まっていました。当社はエンゲージメントの一環として、より長期的な目標を設定し、目標をスコープ 3 の排出量にも拡大するよう同社に働きかけました。また、排出削減の道筋をより明確にし、将来の経営陣の指針となる長期的な脱炭素化コミットメントとの整合性を高めるため、ネットゼロ目標を導入するよう求めました。

成果と展望
2023年7月、同社は新たな排出量目標を公表しました。2030年までに(2019年比で)スコープ1と2の排出量を50%削減し、スコープ3の排出量を30%削減するというもので、2025年までに(2017年を基準として)排出原単位を15%削減するという従来の目標に加え、科学的根拠に基づく目標(Science-Based Targets)イニシアチブによって検証された目標を導入しました。もう一つの重要なコミットメントは、2030年までに持続可能な製品による売上高を現在の40%強から50%に引き上げるというものです。これには、従来の塗料やコーティングよりも二酸化炭素排出量の少ない水性コーティングの割合の増加が見込まれ、気候変動目標に向けた取り組みのみならず、新たな最終市場のニーズに対応する新たな市場機会をもたらす可能性があります。

これらの行動は、同社が気候変動リスクを管理する上で重要な一歩ですが、さらなる改善に取り組む余地はまだ残されています。現段階では、同社はネットゼロ目標の導入に消極的ではあるものの、炭素排出量の多い他の化学企業と比較して、同社のインパクトがすでに小さいことを考えれば、達成可能であると思われます。

当社は、同社のこれまでの進捗を評価し、建設的な対話を継続していくことを期待しています。

「新しい」公開企業のための基本的なガイダンス
Utzブランズ社

背景
Utzブランズ(Utz Brands)社は、塩味系スナック菓子を販売する米国企業です。100年近くにわたり非公開会社として存続した後、同社は2020年にSPAC(特別目的買収会社)を通じて株式を公開しました。同社は、同業の強化を継続する姿勢と、利益率拡大を促進する自助努力を投資家にアピールしていました。しかし、同社は高水準の負債を抱え、サステナビリティの実践や関連データの開示は限定的でした。エンゲージメント・プロセスを通じて、比較的 「若い 」上場企業がしばしば直面する他の問題とともに、これらの問題の改善を期待しました。

視点とプロセス
株式公開後、当社は同社のCEO、CFO、IRチームと定期的にオンラインおよび対面でミーティングを実施し、資本構成や負債、炭素排出量、財務指標、役員報酬について話し合いを重ね、改善の可能性について詳細にわたり提案を行いました。金利上昇の環境下で財務レバレッジが高まっていることから、資本コスト、事業リスク、より広範な金融市場の状況を適切に反映した資本構造を維持するよう提案しました。役員報酬については、長期インセンティブ・プランに投下資本利益率の目標を含めることを検討するよう同社に促しました。気候変動に関する情報開示については、気候変動が食品業界にとって重要なリスクであるという当社の考えを反映し、スコープ1、2および重要なスコープ3の温室効果ガス排出量の開示を提唱しました。

成果と展望
このエンゲージメントの後、同社は1月、三つの製造施設と二つのブランドを現金総額1億8300万ドルで売却すると発表しました。これにより、ネットレバレッジ目標3.0倍を前倒しして2025年末まで1年早めると発表しました。これにより、支払利息の削減を通じて、収益性とフリー・キャッシュ・フローが向上し、戦略目標の達成により集中できるようになることが期待されます。これとは別に、同社は2回目となるサステナビリティ報告書を公表し、スコープ1と2の排出量データを掲載しました。

この二つの進展は喜ばしいことであり、同社がこれらの重要なマイルストーンを達成したことに祝意を表します。一方で、役員報酬の指標、サステナビリティの開示、資本構成などには、さらなる改善の余地があるとみており、今後もエンゲージメントを継続していきます。

影響力のある分野に向けた協働
ウェルタワー

背景
ウェルタワー(Welltower Inc.)は、老人ホーム、介護施設、オフィスビルなどのヘルスケア施設に特化した不動産投資信託(REIT)です。時価総額は、米国のREITで第4位となる520億ドルを誇ります(2024年2月29日時点)。当社は、気候への影響を抑えるために、さらに前進できると考えています。

視点とプロセス
不動産業は、気候変動に最も影響を及ぼす経済セクターの一つであると認識されていますが、経済的便益が明確でないため、変革への着手が遅延するケースがあります。特に、オフィスや倉庫のようなマーケティング上の利点がなく、温暖化対策に係る転換や緩和のためのコストが大きくなりがちなヘルスケア不動産では、この傾向が顕著です。したがって、持続可能性の向上による潜在的な収益への影響を強調することが、エンゲージメントの重要な側面となります。

当社の直近のエンゲージメントでは、スコープ1とスコープ2の排出削減目標および長期的なネット・ゼロ排出量目標の達成計画、「グリーン・テクノロジー」への資本支出計画、グリーン認定ビルの増加、電気ボイラーなどの効率的なテクノロジーの導入可能性、グリーンボンド発行による資金の活用などについて、一連の質問を投げかけました。また、第三者機関のデータとリサ ーチ・アナリストの定性情報を活用した「ネット・ゼロ・ アラインメント指標」を用いて、気候変動目標に関 する同業他社との相対的な位置づけと、さらなる 進展の可能性を示しました。

成果と展望
ウェルタワーから寄せられた回答は、ポジティブなものでした。ウェルタワーはすでに、排出量目標の推進に寄与するサステナビリティ担当を新たに採用し、長期インセンティブ・プランに定められたサステナビリティ目標を達成しました。現在、ウェルタワーは様々な指標における情報開示と炭素効率の向上に取り組んでおり、中間目標設定の重要性を理解し、改善に伴う潜在的な収益と税制上の機会を認識しています。また、スコープ3の目標設定にも関心を示していますが、SECからのさらなる規制ガイダンスを待っているところであり、ネットゼロ目標の導入も検討しています。

当社は、次回のESG報告書において、同社の今後の計画とコミットメントの詳細が説明されることを期待しています。

新たな価値を育むプロセス改善
ジンマー・バイオメット社

背景
ジンマー・バイオメット(Zimmer Biomet)社は、整形外科材料、インプラント、整形外科用消耗品、手術器具の設計、製造、販売を行っています。同社は、米国、欧州、日本における膝関節・股関節などの人工関節・再建用製品市場でトップシェアを占めています。製造手順の改善とガバナンスの強化により、同社は規制上の課題を乗り超えて、その潜在力に見合った革新と収益成長を遂げることができると考えていました。

視点とプロセス
同社は、数年前から当社のポートフォリオに組み込まれています。投資チームが主導する積極的なプロセスを通じて、当社は同社に対し、様々な分野にわたる追加的な情報開示、監督、目標の提供に向けた段階的な措置を取るよう促しました。中でも注目すべき点は、過去にリコールやワーニングレター(行政当局からの警告書)が増加した経緯があることから、製品の安全性と品質、それに関連するサプライチェーンの改善や役員報酬などでした。米国ラージキャップ・バリュー投資チーム、株式リサーチ部門、ESG投資チームは、2022年から2023年にかけて、同社の経営陣、IR、ESGチームと定期的な対話を行いました。

製品の安全性と品質、サプライチェーンに関連して、製品リコール、規制当局による警告書、フォーム483(当局による指摘事項)を持続的に削減するために、品質管理手順を見直し、製品テスト要件を改善することを提案しました。次第に同社はこの分野で大きな進歩を遂げ、2017 年に 100 件以上あったリコールを 2022 年にはわずか 3 件にまで減らし、フォーム 483 と規制当局による警告書は最小限の水準になりました。重要なステップとして、同社はすべての製造拠点について国際標準化機構(ISO)の認証を受け、また第三者機関による監査も受けるようにしました。

当社は、役員報酬制度において、製品の安全性および品質の向上に対する説明責任をさらに強化できると考え、同制度における製品の品質改善に関する目標の開示・定量目標の引き上げを要請しました。同社はこの提案を、直近の進捗をさらに進展させるものとして受け入れました。より広範には、同社は2023年の株主総会招集通知に個別のスキルマトリックスを追加し、リーダーシップの移行において、会長とCEOの役割を分離することをコミットしました。これは、当社が恒久対応を要請してきた事項です。

成果と展望
近年、同社の業績は改善していますが、これは主に、製品の品質問題を克服し、市場での事業展開に注力し、また、フランチャイズ全体で新製品を提供する頻度を増やしたためであると当社は考えています。今後も当社は品質やその他の課題に関してエンゲージメントを継続し、同社の持続的な進歩と将来の持続的成長の見通しを高めていきます。

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