世界中で財政政策が主な政策手段となっているため、「眠れる国」と言われる日本の債券市場における最近のボラティリティが注目を集めています。日本が世界の主要債権国の一つであることを考えると、日本で起こることは、広範囲に影響を及ぼす可能性があります。

関税による市場の混乱が最高潮に達するなかで発表することとなった直近の「アセット・アロケーション委員会の見通し」の中で、当社はトランプ米大統領の初期の通商政策を「静けさの前の嵐」と表現しました。その後、特にリスク資産において、状況は明らかに静かになっています。

しかし、金融市場の一角で火種となっているのがソブリン債市場です。多くの国で財政政策が主な政策手段として注目されるようになったことがきっかけとなり、先進国の長期ソブリン債は直近1カ月ほどで利回りが急上昇しています。驚くべきことに、それを主導しているのが、通常は「退屈な」市場である日本です。

他の地域にどのような影響があるのでしょうか。そして、その結果、どうなるのでしょうか。

アセット・アロケーションの四騎士

市場は表面的には静かになっているように見えるかもしれませんが、よく見ると、複雑な潜在的リスクが引き続き投資環境を形成していることが分かります。このような環境を中期的に(今後12~18カ月間)乗り切るために、当社は以下のような四つの重要な戦略的リスク(アセット・アロケーションの「四騎士」)に焦点を当てています。

  1. 貿易戦争による混乱:他の国・地域に対する米国の平均関税率は、1930年代後半以来の水準に戻る見込みです。足元では、トランプ政権が提案する税制・歳出法案(通称「ビッグ・ビューティフル・ビル」)第899条により、関税対象が実質的にモノからサービスへと拡大する可能性が高まっていますが、まだ初期段階です。こうした「戦争」による(不確実性の高まりとネガティブ・センチメントを通じた)間接的な影響は、経済成長やインフレに対するより直接的なショックよりも、最終的には大きくなる可能性があります。
  2. 金融政策から財政政策への転換:世界各地の多くの政府は数十年ぶりに、主な政策手段として財政政策への依存度を強めています。ドイツでは政府支出がGDP比で20%となり、米国政府は(そして、おそらく英国政府も)緊縮財政から追加刺激策の発動へと急速に方向転換しています。しかし、債務負担が世界最高水準となっており、そのほとんどを中央銀行が保有している日本が再び大きな注目を浴びています。
  3. 繰り返し非難を浴びる金融政策:貿易関連の供給ショックを中央銀行の政策手段でコントロールすることがはるかに難しい米国では、金融政策の展開が特に難しい課題となっています。これは、貿易戦争による需要ショックに圧倒的に直面している欧州中央銀行やイングランド銀行などが管轄している地域とは異なる重要な点です。確かに、当社も他の多くの人々と同様に、労働市場が軟調になるかどうかが将来的に「パウエル・プット」の鍵を握ると考えていますが、労働市場のデータは依然として、最も遅行性の強い経済指標の一つです。その結果、金融政策は将来を見据えたスタンスから、経済指標などに反応しやすく、過去のデータを重視するスタンスにシフトしているように見え、これまでの慣行から著しい変化が見られます。
  4. 地政学的リスクの高まり:ロシア・ウクライナ戦争のように現在進行中の紛争、最近のインド・パキスタン間の緊張の高まり、イランを中心とする中東情勢の不安定性の高まりなど、複雑な地政学的情勢が浮き彫りになっています。投資家が市場への潜在的な影響を評価する上で、政治的駆け引きと意味のある行動を区別することは、依然として重要な課題です。

二番目の騎士の台頭

これら四つの「騎士」が当社の見通しを形作っていますが、最近注目されているのは二番目の騎士、つまり財政政策の台頭です。長期債利回りは上昇しており、米国などでは重要な節目を突破しています。しかし、本当に目を引く動きは、通常はきわめて静かな場所で起こっています。つまり、日本の債券市場です。実際、アセット・アロケーション担当者の2万フィート上空からの視点によると、この典型的な「退屈な」市場が世界的なソブリン債利回りの上昇をけん引しており、イールドカーブの一部(10~30年ゾーンを含む)はこれまでで最もスティープな状態に近づいています。

何が起こっているのでしょうか。

表面的には、財政の浪費が注目されている現在、世界有数の債務国である日本がある程度の圧力にさらされるのは当然のことだと思われます1。補正予算で防衛費がGDP比1.6%から3%に倍増する可能性があること、日本の保険会社に新たなソルベンシー比率が適用されること(人口動態に従い長期債需要の抑制要因となる)、国債入札が何回か不調であったこと、インフレ率が上昇していること、などが火に油を注いでいます。

日銀の綱渡り的な政策

日本と他のほとんどの先進国との重要な違いは、インフレ率が依然として上昇傾向にあると同時にその範囲も拡大している(東京の消費者物価指数[CPI]構成品目の60%超が2%目標を上回っている)一方、政策金利は0.5%という低水準にあるという背景の下で、日銀が金融引き締め政策を進めていることです。実際には、日銀はこれまで認識されてきた以上に引き締めを行っている可能性があります。

日銀は大量の日本国債を保有しています。発行残高に占める保有割合は、ピークだった2023年第3四半期の54%からは低下したものの、2024年末には約52%となっています。米連邦準備制度理事会(FRB)の米国債保有割合が18%(ピーク時は28%)であることを考えると、その差は歴然としています。日本の場合、日銀が保有している資産の中で、日本国債は80%近くを占めており、約57兆円(4,000億ドル)が今年中に満期を迎えます。

こうした債券の最も著しい特徴は、そのデュレーションです。日銀が保有する日本国債の平均デュレーションは6年まで短期化しているとみられ、日本国債市場全体の残存年限よりも3年短くなっているとみられます。別の言い方をすると、日銀は長期国債をほとんど保有していないため、一方で実際に引き締めを行いながら、他方では国債を買い続けているということになります。

先進国の多くが主な政策手段を金融政策から財政政策に切り替えている中、日本の事例から学ぶべき教訓は多いかもしれません。その中でも顕著な教訓が二つあります。一番目は、将来の支出を賄うために必要な国債発行は、慎重に調整する必要があるという点です。たとえば英国では、カーブの中間部分により大きな重点が置かれています。二番目は、一番目と同じくらい重要なのですが、中央銀行はバランスシート・プログラムを慎重に調整する必要があるという点です。FRBのような中央銀行が主に金融情勢を通じて実体経済に影響を与える限り、たとえば30年債利回りが上昇すれば、中央銀行が金融緩和を模索しているまさにそのタイミングで、金融情勢が引き締まることになります。日本は世界最大の債権国の一つでもあるため、日本で何が起こるかは世界の他の国・地域にとって重要です。

日本独自の「オペレーション・ツイスト」など、日本が学ぶべき教訓もおそらくあるかもしれません。日銀は、物価上昇圧力を抑制するために短期金利を引き上げる一方で、満期を迎えた日本国債の償還金をカーブのさらに長期ゾーンに再投資することも可能かもしれません。中央銀行が政策金利を引き上げるにつれて債券のイールドカーブがスティープ化しているのは、市場から日本の金融当局に向けた明確なメッセージであるとみられます。



今後の注目点

  • 6月11日(水):
    • 米国消費者物価指数
  • 6月12日(木):
    • 米国生産者物価指数
  • 6月13日(金):
    • ミシガン大学消費者信頼感指数(速報値)