株式市場の急激な変動は収まっている一方、地政学的緊張の高まりは続いています。

夏期休暇は、ゆっくりとした時間を過ごし、日常のストレスを忘れ、充電する時期です。運が良ければ、株式市場も比較的静かな展開となるかもしれません。しかし、不確実性に満ちあふれ、地政学的緊張が高まる中では、ゆっくりと休息するのは難しいと感じるのも無理はありません。

2週間前に株式市場を突然襲った急激な変動は収まっていますが、11月の米大統領選に向けて、より不安定な展開が予想されます。一方、中東とウクライナにおける紛争のエスカレートにより、エネルギー市場が動揺し、少なくとも短期的には株式のリスクプレミアムが上昇する恐れがあります。

他方、インフレの鎮静化を示す新たな経済指標の発表によって米連邦準備制度理事会(FRB)が、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げに踏み切る可能性が高くなっているようです。FRBがこのまま利下げに踏み切った場合、投資家は低利回りのキャッシュをより利益率の高い投資機会に振り向けることを検討すべきです。

嵐の後の静けさ

8月初旬、長く待ち望まれていた日銀の利上げと軟調な米国雇用統計の発表が重なり、円を借り入れて米国株式を買い付けていた大規模なキャリートレードが巻き戻されるきっかけとなりました。高値圏にあったマグニフィセント・セブンをはじめ、世界の株式市場が急落し、ボラティリティ指数(VIX)は急上昇しました。

マルチアセット戦略のシニア・ポートフォリオ・マネージャーを務めるRobert SurgentとNBプライベート・ウェルス部門最高投資責任者のShannon Saccociaがいち早く指摘したとおり、米経済は減速の可能性はあるものの、米経済を支える良好なファンダメンタルズはさほど変わっていません。実際、S&P500種指数構成企業の第2四半期(4-6月期)の収益は、前年同期比で11%近く増加する勢いであり(ただし、依然として大型ハイテク企業への偏りがきわめて強い)、7月の小売売上高が好調であったことからも明らかな通り、消費支出は全般的に堅調を維持しており、最近発表された雇用統計を詳細に見ると、軟調さの大部分は永続的な雇用喪失ではなく、一時的なレイオフによるものでした。

そして株式市場の動きも、最初は荒れ狂う嵐のように感じられましたが、すぐに短時間のスコールに変わりました。本稿執筆時点では、VIX指数は20を下回る水準(長期平均をわずかに上回る水準)まで低下しており、S&P500種指数は下落分をすべて取り戻しています(ただし、日経平均株価はまだ7月のピークを下回っています)。

一方、新たに発表された7月の経済指標は、引き続き当社の前向きな見方を裏づけています。先月、全米自営業者連盟(NFIB)が発表した中小企業楽観度指数(全米労働人口の半分を雇用する企業の健全性を捉える指数)は、予想を上回る上昇となりました。特に中小企業は金利上昇とタイトな金融環境から打撃を受けていたため、これは重要なポイントです。インフレに関しては、7月の米消費者物価指数(CPI)上昇率が前年同月比2.9%と緩やかな伸びであったことから、9月利下げへの道筋が明確となっており、株式に追い風となる可能性があります。

注視すべき地政学的緊張の高まり

それでも、世界が依然として危険な状態にあることは認識しておくべきであり、市場が最近の地政学的緊張の高まりに目立った反応を示していないことはやや驚きです。

イスラエルとハマスの紛争は10カ月目を迎えていますが、最近、ガザとイランで複数のハマス指導者が暗殺され、ベイルートではヒズボラの軍司令官が暗殺されたことを受けて、紛争が拡大する可能性があると当社ではみています。8月、格付け機関のフィッチは「我々の見解では、ガザでの紛争は2025年まで続く可能性があり、他の戦線にも拡大するリスクがある」として、S&Pグローバルとムーディーズに続いてイスラエル国債の格付けを引き下げました。

一方、最近、ウクライナがロシア領内に侵攻したことは、2022年初頭に始まった血なまぐさい戦争が依然として激しく、すべての和平交渉が中断していることを示唆しています。

悲惨な人的被害が増え続けているにもかかわらず、両地域の紛争がもたらす世界経済全体への影響は、引き続き、主にエネルギー市場にとどまると思われます。いずれかの地域で紛争がさらにエスカレートした場合には、ガソリン価格が上昇し、FRBの利下げ意欲が後退する可能性があります。

警戒を怠らない

当社は投資家に対し、今後数週間は国内政治のみならず、より広範な地政学的・経済的情勢とその潜在的な影響にも目を向けることを推奨します。世界的な不安定さの高まりと米国における指導者の交代が相まって、依然として緊張状態にあると見られる株式市場でリスクプレミアムが上昇する可能性があります。

同時に、FRBによる積極的な金融引き締めサイクルの間、大量のキャッシュ・ポジションを維持してきた投資家は、短期金利が低下するにつれて、その資金を活用する新たな方法を見つけ出す可能性があると思われます。たとえば、日本株式ESGエンゲージメント戦略のポートフォリオ・マネージャーを務める岡村慧は最近の株式市場の下落を受け、特に日本株は魅力的な長期リターンをもたらす好位置につけているとみています。

いまはつかの間の夏休みを楽しみ、リラックスしましょう。



発表された事項

  • 米国生産者物価指数:7月は前年同月比+2.2%、前月比+0.1%
  • 米国消費者物価指数:7月は前年同月比+2.9%、前月比+0.2%(コアCPI:前年同月比+3.2%、前月比+0.2%)
  • ユーロ圏第2四半期GDP(速報値):前期比+0.3%
  • 日本第2四半期GDP(速報値):前期比年率+3.1%
  • 米国小売売上高:7月は前月比+1.0%
  • NAHB住宅市場指数:8月は-2の39
  • 米国住宅着工件数:7月は前月比-6.8%の124万件
  • 米国建築許可件数:7月は前月比-4.0%の140万戸
  • ミシガン大学消費者信頼感指数:8月は+1.4の67.8、1年先期待インフレ率は2.9%で横ばい

今後の注目

  • 8/22(木):
    • FOMC議事要旨
    • 日本購買担当者景気指数(速報値)
    • ユーロ圏購買担当者景気指数(速報値)
    • 米国中古住宅販売件数
    • ユーロ圏消費者信頼感指数(速報値)
  • 8/23(金):
    • 日本消費者物価指数
    • 米国新築住宅販売件数

    – 投資戦略グループ