当社が先日指摘したように、米国の消費の底堅さは過小評価すべきではありません。個人所得の堅調な伸びと、株価や住宅価格の上昇による資産効果は、トランプ大統領の貿易政策による不透明感が残る中でも、消費と消費者信頼感を支えてきました。市場の観点から見ると、年初にみられたボラティリティは、ソフトデータ(アンケート等に基づく景況感などの経済の方向感を示すデータ)に基づく経済成長見通しの調整によるものであり、現在はほぼ沈静化しています。
しかし、今年も後半に差し掛かる中、ハードデータ(実際の経済活動の結果を集計したデータ)の行き詰まりが深刻化しており、米国の経済成長が重要な転換期を迎えようとしていることを示唆しています。賃金上昇率(5月は前月比+0.4%、前年同月比+3.9%)はインフレ率(5月は前月比+0.1%、前年同月比+2.8%)を上回っており、こうした動きは引き続き、多くの消費者にとってクッションの役割を果たしています。その一方で、継続失業保険申請件数(5月は190万人強で昨年末の175万人から増加)はわずかに増加しており、失業者が新たな仕事を見つけるまでに以前よりも時間がかかっていることを示唆しています。
こうした行き詰まった状態を最終的に打破し、投資家が経済とリスク資産の動向を読み解く鍵は、どこにあるのでしょうか。当社は、その答えは企業部門にあると考えています。
CEOの悲観的な見方の一方で、レイオフが増加しない理由
当社が先月指摘したとおり、企業の設備投資計画は最近、2020年4月以来の最低水準まで落ち込んでおり、現在を事業拡大の好機とみている企業の割合は1割未満となっています。
全体として、企業の景況感は急激に悪化しており、2025年第2四半期の最高経営責任者(CEO)信頼感指数は、前期比ベースで1976年の調査開始以来最大の落ち込みとなりました。経済状況が6カ月前より悪化していると回答したCEOは82%に上り、2025年第1四半期のわずか11%から大幅に増加しました。
多くの市場参加者や専門家は、こうした景況感の悪化による影響がハードデータに現れるのは単に時間差があるだけだと主張しています。最近の米サプライマネジメント協会(ISM)のデータは、経済の低調さをある程度反映していますが、通常、企業の景況感悪化が経済全体に波及する際の主な経路となるレイオフは、依然として抑制されています。
政策の不透明感が高まるこうした環境のもとで、企業経営者はコロナ禍時の経験を参考にしているようです。企業は当時、積極的にレイオフを行いましたが、需要が急回復すると再雇用を急ぎ、コスト高を招くなど、大きな課題を残しました。ちなみに、2025年第2四半期の経済見通しを大幅に引き下げたCEOのうち、44%は労働力を維持する計画であり、労働力を純減させる見通しを持っているCEOの割合は27%から28%に微増したにとどまります。1
その結果、企業の景況感が悪化した過去のケースとは異なり、今日におけるCEOの悲観的な見方は、レイオフの広がりにつながっていません。
企業の業績見通し
景況感の悪化は、四半期決算における業績見通しの下方修正という形でも現れています。例外的な政策と経済の不確実性という環境の中、多くの企業が第2四半期の業績見通しの公表を見送り、業績見通しを公表した企業の中では、ネガティブな見通しを公表した企業の数はポジティブな見通しを公表した企業の数を20%上回りました。
市場関係者の中には、企業固有の業績をもって、経済全体に暗雲が立ちこめる予兆だと指摘する向きもあります。たとえば、業績が景気サイクルに連動し、49万人の従業員の83%が米国に拠点を置いているユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)は、多くの市場関係者から米国経済全体の健康状態のバロメーターであると見なされています。
UPSは最近、年内に2万人の人員削減を行うと発表して話題になりました。しかし、こうした報道の背後にある事情に目を向けると、顧客基盤の変化に対応するための大規模なリストラの一環として、UPSはこうした人員削減を行うことを2024年にすでに示唆していたことがわかります。言い換えると、レイオフの広がりはほとんど見られず、企業固有の要因による人員削減が増えているのです。
花火の行方:火花はどちらにとぶのか
2025年3月のCIO Weekly Perspectivesで当社が強調した「確認の時期」がもうすぐやってきます。トランプ政権が税制改正法案の成立を目指している7月4日が注目されています。この期限が過ぎれば、米国の企業経営者はようやく、設備投資の決定に必要なより明確な情報を得ることができ、投資家も、米連邦準備制度理事会(FRB)による年内の利下げ回数がゼロになるか、4回になるか、あるいはその中間になるかをより自信を持って織り込むことができると思われます。
当社が以前指摘したとおり、法案には、さまざまな企業支援策が盛り込まれています。足元の法案と似たような内容が最終予算に反映された場合、今年、企業の景況感に重しとなってきた数多くの懸念が大幅に解消される可能性があります。
もちろん、結果がどうなるかはまったく予測がつかず、議会での審議は期限ぎりぎりまで続きそうです。法案の最終的な内容と関税や貿易に関する明確化が、今年後半の投資、雇用、経済成長の見通しを左右する重要な要因となるでしょう。
一方、経済指標は、企業の「様子見」姿勢がまだ経済の弱さにつながっていないことを示唆しています。7月4日にようやく結果を「見る」ことができます。
混合関税率が穏やかな水準で落ち着き、税制改正法案が成長志向型の特徴を残す場合、企業は雇用と投資を加速させ、経済成長率が上振れする下地を作る可能性があります。逆に、関税が懲罰的な色合いを濃く持っていたり、立法プロセスが停滞したりした場合、企業は最終的に低調な景況感に基づいて行動し、レイオフや企業活動の抑制につながる可能性があります。
以前にも指摘したとおり、花火はまもなく打ちあがります。それが上昇する道を照らすのか、それとも新たな下方へのボラティリティの引き金になるのかは、現時点ではまだ分かりません。
今後の注目点
- 6月17日(火):
- 日銀金融政策決定会合
- 米国小売売上高
- NAHB住宅市場指数
- 6月18日(水):
- 米国建築許可件数
- 米国住宅着工件数
- 6月19日(木):
- FOMC
- 6月20日(金):
- 日本消費者物価指数
- ユーロ圏消費者信頼感指数(速報値)